「ボディメカニクス」を取り入れる
介護士と要介護者、どちらにも負担が少なく安全で安心して介護を行うために注目を集めているのが「ボディメカニクス」です。ここではボディメカニクスの定義や移乗介助に効果的な動作について詳しくまとめていきます。
ボディメカニクスとは?
ボディメカニクスとは身体(body)と機械学(mechanics)からなり、人間の身体を機械として考えたときの特徴を明らかにすることです。人間の身体は神経系や骨格系、関節系とのかかわりで成り立っています。そのため、寝返りや歩行といった動作や介護に欠かせない移乗の動作などの基盤となっており、ボディメカニクスを活用することで余計な力を入れずに介助ができるようになります。つまり、力が必要だと思われている寝返りや移乗といった動作も力任せにしなくても無理なく体の向きを変えたり抱きかかえたりできるので、腰痛の予防になる、ということです。
「状態を安定させる」
まずは身体を安定させてから介助するために足を前後左右に開いて支持基底面積を多く取るようにします。支持基底面積とは、床と接している足元の面積のことです。足を閉じていれば支持基底面積は小さくなり、足を大きく開けば面積も大きくなります。さらに、腰を落として体の重心を低くすることで体がよろめかなくなります。
「要介護者と自分の重心を近づける」
重いものを持つときどういう態勢で持っていますか。より身体に近い位置に抱え込んで持っていませんか。
身体と荷物が離れてしまうと双方の重心が離れてしまうため重く感じますし腰も曲がってしまうので、少ない力で介助するには自分と要介護者の重心を近づけることがポイントです。
「要介護者の身体を小さくまとめる」
動かしやすくするには力を分散させず一点に集中することです。手足を伸ばして大の字になっている要介護者の身体を中央に寄せることでベッドとの設置面積が小さくなるため、摩擦力が減って少ない力で介助ができます。
「手だけでなく腹筋・背筋も使う」
要介護者を移動させるときは指や手など一部分のみに力を入れて作業してしまうことがありますが、その場合、手や指先だけに負担が集中してしまうため疲れやすくなってしまいます。手や指だけでなく腹筋や背筋、お尻や太ももの筋肉など全身を使うことを意識しましょう。
「持ち上げるのではなく水平移動」
要介護者を抱きかかえるときは持ち上げるのではなく「水平移動」を意識しましょう。持ち上げてしまうと重力に逆らうことになるのでどうしても重たく感じてしまいます。自分のお腹に引き寄せるようにするとそれほど力を入れずに要介護者を移動させることができます。
「つま先は移動する方向に向ける」
腰を不自然にひねる動作も腰痛の原因になります。要介護者を車いすなどから移乗させるときに身体だけをねじってしまうと腰を痛めてしまうため、重心も一緒に移動するようにつま先を移動する方向に向け、体をねじらないように意識しましょう。
「てこの原理を利用しよう」
力を加える「力点」と力が働く「作用点」の間に支点を置くことで少ない力で大きなものを動かす「てこの原理」を利用すると要介護者を持ち上げずに移動させることができます。たとえば、ベッドの上寝ている状態の要介護者を座らせるときは臀部を支点にして回転させると、持ち上げずに座らせることができます。