「ノーリフト」の考え方
腰痛を予防する方法のひとつが、人力だけで要介護者を抱えあげない「ノーリフト」です。ここではノーリフトのメリットやコツを詳しく紹介していきます。
介護と「抱きかかえ」は切り離せない
入浴介助やトイレ介助、移乗介助など、要介護者を「抱きかかえる」介護はたくさんあります。介護の現場で抱きかかえるのは「もの」ではなく「人」なので、「落としてはいけない」「痛い思いをさせてはいけない」といったプレッシャーをいつも感じながら仕事をしていますが、このようなストレスは精神的にも大きな負担となります。最近の研究によると、この精神的ストレスも腰痛を引き起こす要因のひとつになることが明らかになっているため、ストレスを軽減することも腰痛予防には欠かせないのです。
「人力」から「ノーリフト」へ
日本では要介護者の移乗は人力で行うのが一般的ですが、アメリカやヨーロッパではリスクが高いとして移乗用リフトなどの福祉用具を積極的に取り入れています。福祉用具には購入費用やメンテナンスといったコストがかかりますが、導入することによって介護士の負担を軽くして腰痛の発症リスクを減らしたり、腰痛による休業を余儀なくされた介護士の補充要因を減らしたりといったコストパフォーマンスの面でも大きなメリットがあるといわれています。
人力に頼らず福祉用具を導入する「ノーリフト」が日本にも徐々に浸透してきていますが、きっかけになったのはオーストラリア看護連盟が1998年に看護師の腰痛の予防対策として「ノーリフトポリシー」をスタートさせたことです。ノーリフトポリシーとは危険や苦痛がある人力での移乗を禁止し、患者さんの自立度を考えて福祉用具を使って移乗することを義務付けたものです。日本でも2008年ごろから介護士の腰痛予防だけでなく要介護者にも良い効果があるとしてノーリフトによる介護が取り入れられています。
福祉用具を利用するメリットとは?
人力による移乗の場合、要介護者にも身構えて身体に力が入ってしまったり、床ずれしたりといったようにかなりの負担がかかります。ですが、福祉用具を利用することで、腰痛だけでなく肩こりも起きにくくなりますし、力加減や介護士のスキルに関係なく同じ質で介助ができるので要介護者にも安心感を与えます。また、人力のように力の入れ具合が不安定ではないため、安全性が高まり事故の予防にもなります。
ノーリフトは身体の使い方で実践できる
「ノーリフト」という言葉からは「手を出さないこと」を連想するため、福祉用具が不可欠のように思うかもしれませんが、必ず福祉用具を導入しなければいけないというわけではありません。腰痛にならないように体の使い方を工夫することもノーリフトのひとつです。足を前後に広げ腰を落として重心を動かすことで全身の力が利用できるので、無理やり力を入れなくても安全に移乗介助ができます。